大阪高等裁判所 昭和34年(う)783号 判決
判決理由〔抄録〕
かような場合、右運転者としては、路傍にいる六歳位の児童は突然道路の中央に飛び出すかも測り知れないことは経験則上明らかであり、具体的に児童が飛び出す徴表が存するときは勿論、そうでなくとも運転者としては、児童の動静に注視し、その進路に飛び出したときは直ちに急停車し得るよう徐行し、殊に先行車により児童の行動に対する視野を妨げられないよう追い越しを避け、その他適宜の措置をとって進行するなど事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるものと言わなければならない。しかるに被告人は右児童のその後の行動に何ら注意を払わず、徐行地域であるのに減速することなく、制限時速四十粁を越えて約四十五粁で漫然進行を続け金井春雄の運転する前記自転車を追い越さんとし、金井の車の約四、五米位前方を突然駈け抜けた被害者安英道に気付かず、右金井の車を追い越した途端に同人が突然道路の直前に現われたので、急拠制動をかけ、ハンドルを右に切ったが間に合わず本件事故を発生するに至らしめたものであって、右注意義務を怠った過失の刑責が免れ得ないことは当然であると言わなければならない。しかして、原判決は一般に道端にいる児童を見掛けた諸車の操縦者は児童の所在する位置、姿勢、挙動その他外部から観察することのできる徴表に照らして道路上に飛び出す危険が具体的に看取できる場合に徐行して事故発生を未然に防止すべき注意義務はあるが、一般的抽象的にいついかなる場合に飛び出すかも知れないあらゆる可能性に適応する措置をとる義務はないと説示するが、右は例えば専用敷地の軌道上を高速度で走る列車等公衆のため時間を遵守して運転する職責を有する鉄道機関士等の注意義務については格別その他特別の事情の認められない本件のような一応車道人道の区別はあるが一般交通の用に供する市街地の道路上を進行する諸車の操縦者の業務上注意義務については前叙のとおり解するのを相当とし、かく解することが運転者に対し不当に過酷な注意義務を課するものとは言えない。よって原判決が本件事故発生は不可抗力によるもので、被告人の過失によるものとの証明がないとして、被告人に対し無罪の言渡をしたのは、まさに法令の解釈適用を誤ったものというべく、この誤が判決に影響を及ぼすことは明らかなところであるから、原判決はこの点において破棄を免れない。